及川徹の才能開花:秀才の壁をぶち破れ

天才と秀才

ハイキューの世界は厳しく残酷だ。多くのスポーツ漫画において「天才と秀才」は永遠のテーマだが、ハイキューでもこの境目は多くのドラマを巻き起こす。

作中一貫して及川は典型的な「秀才」として描かれる。対となるのは天才影山であり、青葉城西という学校自体が「秀才」という役割を負わされている。ただしここで重要なのは、天才か否という問題自体よりも及川自身が自分を天才ではないと断じてしまっている事だ。

 

この思い込みの重要性は17巻、二度目の烏野VS青葉城西のラストに如実に現れる。

試合終盤及川は一人

「才能の開花のチャンスを掴むのは今日かも知れない」
「もしくは明日か、明後日か、来年か、30歳になってからかもな。体格ばかりはなんともいえないけれど、何と思ってたら一生ないんだ」

と呟く。これまで天才を憎みその力をバネとして努力してきた彼の内面の決定的変化を読み取らせる台詞だ。そして試合のクライマックス。レシーブが乱され飛んで行ったボールを全力で追いかけての超ロングトス。ここでのモノローグが

「才能は開花させるもの、センスは磨くもの!」 

アニメだと、ここで及川さんが最高のトスを上げた後にスマートに立ってコートに走るんじゃなくて、一回ずるって転んでイケメン台無しの形相で、でも最高に楽しいって顔で立ち上がるのが本当に彼らしくて素晴らしい演出。

きっと及川の才能はこの時点で二度目の烏野戦の最後の1ポイントでやっと開花したのだろう。これは彼が開花を信じ始めたからこそ実現した事だと思う。そしてそのトスを受けたのはやっぱり相棒の岩泉だった。彼らは結局その後敗北するのだが物語はそこでは終わらない。幼い頃からずっとトスを受けてきた岩泉は、及川の最後のトスのこれまでとの違いに如実に気づいたのではないだろうか。

 岩泉の祝福

及川がやっと殻を破った事や、今や及川は遥か高みまで飛んでいける翼を手に入れた事も。だから彼は帰り道及川に生涯に渡る呪いをかけた。呪いという名の大いなる祝福を。

岩泉が自分を見限ったわけじゃない。ただそれでも及川は羽ばたいていかなきゃいけない。自分の「自慢のすっげーセッター」だからこそ。ただただ尊い

お前は多分じいさんになるくらいまで幸せになれない。

たとえどんな大会で勝っても完璧に満足なんてできずに一生バレーを追っかけて生きていく。

めんどくせえ奴だからな。でも迷わず進めよ

 

そして彼の才能開花においてもう一人非常に重要なのが、大学のスカウトだかコーチだかであろう不明人物が告げた言葉だ。

自分より優れた何かを持っている人間は生まれた時点で自分とは違っている。それを覆すことなど、どんな努力、工夫、仲間をもってしても不可能だ。

そう嘆くのは全ての正しい努力をしてからで遅くない。
自分は天才とは違うからと嘆き、諦めることより、自分の力はこんなものではないと信じて、ひたすらに真っ直ぐに道をすすんでいくことは

辛く苦しい道であるかもしれないけれど。

それにしてもこの人物の影響力は凄まじい。

これまで好人物である事が度々描かれた青葉城西の監督ですら、及川を高く評価しつつも「及川徹は天才ではない。」と断言してしまっていた。正直この監督の台詞を読んだ時は、自分も天才ですらない監督に他人の才能の有無が判じ切れるのだろうかという疑問を抱いた。だからこそ今回の才能開花は本当に嬉しい。

人は自分が変われると信じなければ変われない。及川は白鳥沢に入学していたら、きっと全国優勝とか凄い実績を残せたのだろう。牛島のセッターとして。でもそれではきっと及川自身才能開花はなかった。物凄く上手な秀才止まりだったと思う。天才と死ぬ気で戦って負けて負けて負け続けた3年間。どうやったら勝てるのか、どうやったらチームの力を120%に出来るのかを死に物狂いで考えた3年間こそが及川の才能開花の下地になった。

青葉城西は最強じゃなかったけど、最高のチームだった。

 

+αでの想像

この才能開花は及川の将来を大きく変えたのではないだろうか。岩泉の呪い「一生バレーを追いかけて生きていく」という祝福も合わせてメタ的に考えると、及川は将来日本代表、それに準ずる立場で活躍できると思う。及川のバレーが続いていくフラグは牛若への敗戦後の

俺は自分の選択が間違いだと思った事は一度も無いし

俺のバレーは何一つ終わっていない

取るに足らないこのプライド、絶対に覚えておけよ 

 というセリフの時点で決定づけられてるし。

でも何よりも岩泉の言葉によって及川のバレー人生が続いていくことが暗示されたことが本当に嬉しかった。実のところ今回の予選で及川さんは怪我が悪化&バレーは終わりという展開も全くありえないわけではないかなってずっと不安だった。膝のサポーターの色が左右で違ってたことも含め怪我説は結構提唱されていた。だからこそ岩ちゃんの呪いは本当に嬉しかった。最高の祝福だった。ありがとう。

それからもし、及川に天が与えた才能が眠ってるってことに気づいてたのが牛島と影山だけだったとしたらすごく萌えるし燃える。才能は同じものを持つ天才にしか見抜けない可能性だってあるのではないだろうか。だからこそ影山と牛島は及川に執着していた。なんてことあったらいいな。